「トリコ、小松くんだけは諦められない」
「・・・・そうかよ」
「初めてなんだ。生まれて初めて、どうしても欲しいと思った」
トリコがいなければ、自分は彼と出会うことなどできなかったのだろう。
その出会いを与えてくれたトリコに感謝はしているけれど。
どうしても、それを理由に諦めることなどできはしない。
泥沼のような闇に沈んでいた自分を掬いあげてくれた、小さな彼・・・。
これまでの人生で、自分はどれだけのものを諦めてきたのだろう。
普通を諦め、異常のない身体を諦め、人との関わりを諦め・・・。
それなのに、彼に出会ったことで新たな欲が生まれてしまった。
何かを求めることなんて、絶対にしないと思っていたのに。
自分はそれを裏切り、小さな彼だけを求めてしまうようになったのだ。
トリコも彼に惹かれていることは知っているけれど、どうしても引けない。
まさに運命の出会いと恥ずかしい言葉を口にしても構わないくらいに。
自分は彼を愛しているのだから・・・。
「お前が、小松くんを好きなのは知ってる」
「・・・」
「でも、僕とお前は対等だよ・・・・どちらも小松くんの想いは手に入れられていないからね」
自分よりも長い時間を共に過ごしていた、トリコ。
今更、それを羨ましがっても仕方ないのだ。
「僕はお前が羨ましかったけど、もうそんなのどうでもいい」
「・・・ふーん」
「僕は小松くんが好きなんだ。絶対に諦めないから・・・・っ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・行くのか?」
「ああ」
「それだけ、伝えに来たのか?」
「そうだよ。時間をとらせて、すまなかった」
「・・・・別に、いいけどな」
ココがキッスの背中に乗り、飛び去っていく・・・。
それを見送りながら、トリコは溜息をついた。
わざわざ自分の家まで来たかと思えば、そんなことを言いに来るなんて。
ココは宣言のつもりなのだろうが、そんなことに意味がない・・・ということをトリコは知っている。
「俺って、可哀想じゃねぇ・・・?」
一人、寂しげに呟いて・・・・笑う。
諦めたくないのは自分も同じことだ。
それなのに、もうすでに勝敗は決まっているのだから。
これで泣きたくならない男はいないのではないか。
そう思って、トリコは葉巻樹に火をつけた。
吐き出した灰色の煙が、暁の空に溶けて消える。
その様子が、自分をより一層悲しくさせるかのようだ・・・・。
それでも、思うことは一つ。
「そりゃ、小松は好きだけどよ・・・・」
できることならば、自分が手に入れたかった。
だけど、それだけは無理なのだということを知っている。
だからこそ、こんなにも切ないのではないか・・・と。
トリコは二度目の溜息をついた。
「あれ、ココさんじゃないですか・・・っ」
「小松くん、今日はもう仕事終わり?」
「そうですよ。何かご用ですか?」
「いや・・・・その・・・・・・」
「?」
ホテルの仕事が終わり、小松は裏口から外に出た所でココに会った。
ココはキッスを撫でていたのだが、すぐに小松に気づいて駆け寄ってくる。
そして、少しだけ頬を染めて恥ずかしそうに言うのだ。
「小松くんに、逢いたくて・・・・来ちゃったんだ・・・・・・迷惑だったかな」
「・・・・そんな、迷惑だなんて。僕も会いたかったですよ!」
「ほ、本当!?」
「はい。逢いに来てくださって嬉しいです。あ、この後は時間ありますか?」
「うん、あるよ」
「じゃあ、ご飯食べません?僕、お腹空いてるんですよ」
小松の仕事は忙しい。
ご飯を食べている時間など、あまりないのかもしれない。
そう思ったココは、小松をひょいっと抱きあげた。
あまりに突然のことで、小松が驚いて声をあげる。
「うわぁ・・・!な、なんですか!?」
「僕の家においでよ。ごちそうするから」
「いや、あの・・・・この抱きあげ方は・・・恥ずかしいんですけど・・・」
「どうして?」
ココは所謂、お姫様だっこをしているのだ。
裏口は人通りが殆どないとはいえ、流石に恥ずかしい。
平然と笑っているココが信じられないけれど。
自分も恥ずかしいだけで、決して嫌ではないのが不思議だ。
「小松くんって、軽いんだね」
「そうですか・・・?」
「うん。もう少し食べた方がいいよ。小食過ぎるんじゃないかな」
「・・・・普通だと思いますけど、作る方が楽しいので食べる方にはあまり集中しないことが多いんですよね」
「・・・・・・・・・・・そうか。じゃあ、僕の作る料理を食べてほしいな」
「え?」
「いつも小松くんに作ってもらってばかりだし、たまには僕に作らせてよ」
「・・・・・あ、あの」
「ん?」
「う・・・・嬉しい、です・・・・////」
小松は顔を赤く染めていた。
恥ずかしさのあまりにココから目線を背けている様子が、なんとも愛らしい。
ココは、自分の心臓は早鐘のように高鳴るのを感じていた。
こんなにも、誰かを愛しく思ったことはない・・・。
だからこそ、小松が欲しくてたまらないのだ。
自分を好きになってもらいたい、と。
自分の想いを受け入れてほしい、と。
「・・・小松くん」
「あ、はい」
「好き」
「・・・・・え?」
「好きだよ。君が好きなんだ、小松くん」
「え・・・え・・・・えぇぇぇっ!?」
いきなりすぎるココの告白に、小松は戸惑いを隠せない。
顔を耳まで真っ赤にしてしまうと、目を大きく見開いた。
その先にあるココは、小松を愛おしげに熱っぽく見つめている・・・。
「・・・気持ち、悪いかな・・・・男が男を好きなんて・・・」
「あ、いや・・・その・・・」
「でも、僕は君のことが好きなんだよ・・・小松くん」
「・・・・・・あ・・・」
「僕を受け入れてほしい。もし駄目なら・・・・」
「・・・・?」
「駄目なら、もう関わらないように努力するから」
「・・!!」
最後の言葉を呟いたココは、なんとも寂しげだった。
それを一番恐れているとでも言うかのように、悲しそうな目を小松に向けるのだ。
人との関わりを避けてきたココだが、それは自分の本意ではないはず。
毒というネックを持っているからこその行動だ。
そして、そんなココが自分から会いに来てくれた。
それが嬉しい気持ちに嘘はない。
何故なら、小松自身も・・・・。
「・・・・ココさん、悲しいことを言わないでください」
「・・・ご、ごめん・・・」
「ココさんが逢いに来てくれるの、待ってたのに」
「・・・え」
「やっと来てくれたと思ったら、そんな悲しいこと言うなんて・・・」
「あ・・・・・それは、告白が嫌だったの・・・?」
「・・・・・・・・・そんなわけ、ないじゃないですかぁ!!」
ココに抱きあげられたまま、小松は大声を出した。
そして、涙目になりながらココを睨みつける・・・。
ココは訳がわからずに、困惑した。
「小松くん・・・・泣いて・・・・」
「ココさんのせいです!僕がココさんを拒絶するわけないのに!僕も好きなのに!!」
「・・・・・・・・・え」
「僕も、ココさんのこと好きなんですよ・・・・逢いに来てくれたことが、嬉しくてしょうがないのに・・・」
「小松くん、ごめん・・・泣かないで」
「酷い・・・・ココさんは、酷いですっ・・・・・」
「ごめんよ・・・・小松くん」
「・・・・・・謝るなら、責任とってください」
小松が頬を膨らましながら、ココをジロリと睨む。
だけど、なんだかハムスターが頬袋を膨らましているようにしか見えなくて。
怒られているのに、可愛いなんて思うココは末期かもしれない。
「せ、責任・・・?」
「そうです。僕を泣かせた責任です」
「・・・どうやって、責任とれば」
小松の想いを知って嬉しいが、泣かせたことは事実。
それを申し訳なく思うのも本当なので、責任をとれと言うなればとるつもりだ。
小松が何を望んでも、それに応えてあげたい・・・。
すると、小松が自分からココに触れるだけのキスをして言った。
不意打ちのキスに、ココは驚いて顔を赤くするが・・・。
小松はその反応を面白がるように、笑う。
「僕を、幸せにしてください」
「!!・・・・そ、それは」
「責任、とってくれるんですよね?駄目なんですか?」
「小松、くん・・・」
「はい」
「・・・喜んで、責任とるよ!」
「じゃあ・・・・期待してますっ」
ココは嬉しさのあまりに小松を強く抱きしめた。
小松もそれを受け入れてくれているので、更に嬉しくなる。
あまり強くしてしまうと怪我をさせてしまうので、なるべく抑えてはいるが・・・。
こんなにも自分が幸せで、いいのかと思ってしまうのだ。
「ココさん、好きです」
「小松くん、好きだよ。愛してる」
どうしても諦めたくなかった想い。
もう、何かを諦める必要などないのだと思うと。
嬉しくてしょうがない。
ココは小松にキスをして、耳元で小さく呟いた。
その呟きを聞いた小松が、ニッコリと微笑む・・・。
「僕もです・・・っ!」
君が傍にいてくれるだけで、僕は世界一の幸せ者
end
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あああああああありがとうございましたっ舞人さまっ…!!!!!甘くて幸せなココマを頂けて本当に幸せです…!!!!!
切ないところもあるけど、大ハッピーエンドでもう幸せいっぱいお腹いっぱいごちそうさまでした状態です!!
このお話の後半ってず~~~っと姫抱き状態なんですよね?!姫抱きでこの会話…はぁはぁはぁ。←変態かw
これからも素敵なお話を沢山読ませて頂きたいですVvv 本当に本当にありがとうございましたっ!!!
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