志藤さまからの頂き物(キリリク戦利品)!!

願ったり叶ったり?

国際グルメ機関(IGO)直属の「HOTEL GOURMET(ホテルグルメ)」――その最上階97Fから美しい夜景を一望することができる展望レストランは、本日貸し切りとなっていた。
というのも、今夜は超VIPな人物が来店するのだ。その人物とはIGOと並々ならぬ縁を有するばかりか、当該レストランの若きコック長とも懇意な間柄だともっぱらの噂だ。

超VIPな人物とは?

「ココさん!」
「やあ、小松くん。久しぶりだね?」

正装ココ

黒のスーツに身を包んだ紳士然とした男は、わざわざ入り口まで自分を出迎えに来てくれた小柄な青年を視界に入れて口元を緩ませた。
己の腰ほどまでしかない青年がまとっているのは白のコックコート。一見頼りなげに見えるが、彼は今日男が招待されたレストランのコック長を勤めている将来有望な若者だ。以前コック姿を目にした時はピンク色のそれだったと記憶しているが、純白も悪くない。青年によく似合っている。男は目を細めて青年の姿に見入る。
屈託のない笑顔は穏やかな電磁波と相まって、男の気持ちを驚くほど和ませてくれる。

(前に会った時から一週間と経たないのに、随分と久しく感じるな…)
それだけ彼に会えるのを楽しみにしていたのだろう。
再会の喜びを噛みしめつつ自身の心の動きを客観的に判断していると、唐突に目の前の青年が「あ!」と慌てたように口を手で押さえて小さく声を上げた。何事かと首を軽く傾げていると、青年はコック帽をはずして恭しく頭を下げ始めた。
「ご、ご無沙汰しております、ココ様。本日は当レストランにお越しいただき誠に……」
「やだな、よしてくれよ。キミから様を付けて呼ばれるほどボクは偉くない」
青年の口から飛び出した少々つっかえながらの堅苦しい言葉遣いに、今度は男の方が慌てた。しなやかながらも男らしい柳眉が困ったようにひそめられている。
「えっ、あの、しかし、ココ様は大事なお客様ですので…!」
対する青年も、眉を寄せて困ったような表情をしていた。
冒頭の台詞でうっかり仕事であることを忘れて普通に名を呼んでしまった手前、男から叱られるとでも思っていたらしく、考えとは逆のことを言われてまごついている。
「うん、ありがとう。ボクにはその気持ちだけで十分だから。
 立場上仕方ないとは思うんだけど、できればいつも通りに接してもらえないかな」
青年の言う通り、シェフが来客を丁重に扱うのは当然であり、好ましい対応だ。
ただ、今の男にとってはそうではなかったというだけで。

客への敬意が欲しいわけではなかった。普段のように親しみを感じるような、丁寧ながらも程よく砕けた物言いを欲しているのだ。せっかく久々に会えたのだから、聴覚でも彼を実感したい。我が儘と承知で、男は懇願した。
「はあ…でもでも、いつも通りと言いますと、品性のカケラもない具合になってしまいますよ?
 もう本っ当に目に余るぐらい図々しいですよ!それでもよろしいんですかっ?」
言い含めるように必死に繰り返す様が面白おかしくて、危うく吹き出すところだった。
(何だろう、これは脅しのつもりなのかな)
恐れを抱くどころか、喜んで受け入れるのに、と男は笑い出しそうになるのを抑え込んだ。
上目遣いの丸く大きな瞳が、否定を促すように見えて、もしかしたら青年は己が口にした言葉を深読みしたのかもしれない、と男はそれほど遠くないだろう予想を立てる。
コック長の青年は、男が品性を重んじる性格であることを逆手に取って、相手の妥協を得ようとしているのだろう。わざと自分を貶める言い方も、どこか相手への思いやりにあふれている。あるいは、それこそが深読みなのか。予想の真偽はさして問題ではなかった。
どちらにしろ、男の応えはもう決まっている。

「もちろんだよ。それでこそ小松くんじゃないか」
そして、男はそんな青年だからこそ好意を抱くのだ。
本音を口に出さない代わりに、男は万感の思いを込めて満面の笑みを浮かべた。
それを目の当たりにした青年は盛大に顔を歪めた。
「ものっそい笑顔で短所を肯定されたーーー!?ぜ、全然嬉しくないんですけど!」
思いが伝わった気配は微塵もないが、男にとっては満足のいく成果を得られたと言えるだろう。なぜなら、まんまと青年の品性の欠けた反応を導き出せたからだ。男はほくそ笑んだ。
「フフ、冗談さ」
「冗談に聞こえませんよ」
半眼でいじけたような声に戯れ心をくすぐられ、男は顎に手をあてながら目を泳がせて考える素振りをしてから、ぽつり。
「……半分ぐらいは」
「やっぱり冗談じゃなかったーー!!」
打てば響くような切り返しに、男は相好を崩して、思わず青年の頭を撫でていた。
そんなキミだから、触れてみたくなる
「うんうん、その調子だよ小松くん!」
「ちょ、ココさぁん、なんでそんな楽しそうなんスか…」
青年は頭を撫でられるという年齢にそぐわない扱いを受けても気にする様子も見せず、ただただ不思議そうに男を見つめるのだった。


店の入り口でシェフから歓待を受けていたその人は、美食屋四天王の一人、ココだ。
今では易者としても名を馳せているココは、最近になってまたグルメ食材を調達するハントに精を出すようになったらしい。怪我や病気などの身体的な問題からではなく、内生的な事情から美食屋家業を離れていた彼に、一体どのような心境の変化があったのか。
その理由の一因には、にこやかにココを店内へと案内する小柄な青年の存在が関わっているのかもしれない。コック長である小松と相対するココ自身が、相手に負けず劣らず嬉しげで、それでいて物柔らかな表情を浮かべていることが、そういった示唆を与えている。

フォーマルな装いはココの洗練された体躯を強調し、女性をうっとりとさせるような甘いマスクも一層際立っている。そんな彼が惜しみなくさらす無防備な笑顔の威力は凄まじく、従業員専用のドアや厨房から、配膳係でもない従業員達が顔をのぞかせては興味津々な視線をココに向けていた。それどころか、中にはレストランのスタッフでもない者が混じっている。女性中心だが、女性ばかりではなく男性従業員も同様の反応だ。
そんな彼らの落ち着きのない様子にちらりと目を向けて、小松はそっと苦笑いを漏らす。
(こりゃ、来週はみんなで反省会開かなきゃなあ。もちろん、ボクも含めて)
五つ星を頂くレストランであるからには、相手がどんなに魅力的で、どんなに興味をそそられる人物であっても、来客の外見や名声に現を抜かし、もてなす側としての振る舞いを疎かにすることがあってはならない。そうした信念はここで働く全ての従業員に徹底している、はずだった。

ココの有名人オーラ?

しかし、今日のココは一段と艶やかな雰囲気をまとっており、見るものの心を惑わせた。
常に五つ星レストランに携わる者としての矜持を持つ従業員はもちろん、この場において誰よりもココと間近で接する機会に恵まれ、多少は耐性が付いていると自負している小松でさえ、今日の彼に対して冷静な対応を貫くのは至難の業だった。
有名人オーラが出ているせいだ、と思っているのは実は小松だけだが、彼にとってはそれが最も納得のいく答えであり、それゆえに由々しき事態を引き起こしていた。
緊張で手に額に冷や汗がだらだら流れて、フルコースの内容を説明する口も上手く回らない。実際、何度か露骨に言い損じてしまった。それがレストランを代表する者として、ココという大切な友人を迎える者として、どうにも恥ずかしく申し訳なくて、小松の顔は自然と赤らんでいた。
救いがあるとすれば、従業員の至らなさを目にしても、ココが終始上機嫌だったことだろう。

当のココは至って平静を保っていた。いくつもの好奇の視線を向けられても何のその、彼の瞳は変わらずに穏やかな色をたたえていた。恥ずかしげに頬を染めて厨房に引っ込む小松を妙に熱っぽい眼差しで眺め続けていたものの、不快感を示す様子は見られない。
実際問題、いくらココに魅了されているとはいっても店側の基本的なサービス提供には何ら支障はなく、ココにとってさしたる影響はなかった。従業員が必要以上にココに近づくことは許されないし、そもそも必要がなければ近づくことはできない。せいぜい、悩ましげな視線を送るぐらいが関の山なのだ。地元の町においては隙あらば女性陣に揉みくちゃにされているココにしてみれば、無視するだけで事足りる周囲の目など可愛く思えた。
(いや、逆にここで揉みくちゃにされたら困るけど)
五つ星レストランという肩書きは伊達ではない。小松の指導がよく行き渡っている証拠だろう。また、緊張しているからといって小松や他の調理スタッフの腕が狂うはずもなく、振る舞われる料理の数々は全て最上級の質と味を誇っていた。それは十分にココの目と舌を楽しませてくれるものだった。
それに、ココには料理以上に至福を味わえる理由が存在するのだから、最初から懸念などないに等しいのだ。

最高の料理に感嘆の溜息を。

最後の料理を綺麗に平らげたココは、唇をテーブルナプキンで綺麗に拭って一息ついた。
伏目がちに落とされたそのため息一つですら色香を含んでいるように見る人々を錯覚させる。密かに見物に来ていた幾人かの女性従業員がのぼせ上がり、同僚の手でスタッフルームに運ばれて行った。
その異様な光景に思わず目を奪われていたのは、片づけを粗方終えて厨房からひょっこりと出てきた小松だ。
その時小松は見た!
(どうしたんだろう…貧血か何かかな?)
体調が悪いのを押してまでも四天王を拝みたかったのかもしれない、と若干ずれた思考をたどり、ぼんやりと従業員の心配をしていると、
「小松くん」
不意に名を呼ばれて、足を向けていた元の方向に意識を引き戻された。
さすが視力も良いと聞いていただけあって、それなりに距離のあるテーブルからでも小松の姿に気付いていたらしい。途中で無意識に歩みが遅くなっていたようだから、怪訝に思ったのかもしれない。小松は遅れた分を取り戻すようにやや小走りにしてココがいるテーブルに近づいた。
「すみません、ぼうっとしちゃって!」
「いや、いいんだ。それより、今日の料理はとても素晴らしかったよ」
「本当ですか!四天王と謳われるココさんにもご満足いただける出来でしたか?」
「ああ、もちろんさ。見栄えも味も文句なしだ。さすが五つ星レストランだけあるね」
ココはそれぞれの料理について、食材の組み合わせや調理法など、どこに感動を覚えたかを言葉巧みに説明した上で褒めちぎった。ただ単に賛美するだけでなく、新たなアイディアのヒントとなるようにと体験談や豊富な知識が盛り込まれていいたため、小松にとっては参考になる点も多く、興味津々に聞き入った。
そのうち美食全般への話題へと発展し、二人は時間を忘れて語り合う。

時間も忘れてしまうほど。

美食に関する話となると、方や料理人としての技術力も高い美食屋、方や更なる高みを目指す一流の料理人であるために、話のネタは尽きることがなく、気が付けば閉店時間をとっくに過ぎていた。
今夜はココが貸し切っていたために、他の客はいない。各々の業務を終えた他の従業員たちは、未だにフェロモンを撒き散らしているココに後ろ髪を引かれながらも、小松に一声かけると早々に帰っていった。
「……そろそろ、お暇しないといけないようだね」
さすがに長居をし過ぎたと、ココが苦笑を滲ませる。
それを聞いて、ついつい調子に乗って話を長引かせていた小松も我に返る。
「そ、そうですね、ちゃんと店も閉めとかないと…」
といっても、今日は気を遣った従業員たちが閉店作業のほとんどを買って出てくれたので、残る仕事といえば最終チェックと戸締りぐらいだった。
ココが席を立ち、小松もそれにならう。
「今日はありがとうございました!色々とアドバイスも聞かせてもらえて、為になりました!」
立ち上がって丁寧に頭を下げる小松を見て、ココは照れ臭そうに笑う。
「フフ、お礼を言うのはボクの方だろう?今日はありがとう。有意義な時間を過ごせたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
小松の本当に嬉しそうな笑顔に、ココはほこほこと胸が温かくなるのを感じた。
もう少しだけ、この心地よい気分を味わいたい、と願う。
準備はしてきたものの、タイミングを見計らっているうちに、ずるずると別れる間際まで来てしまった。時間が過ぎるごとにココの心中に焦りが募っていたが、それが面に出ることはなかったのは幸いなのかそうでないのか。

「それにしても、ボクの話なんかで役に立ったかな」
「役に立つも何も、目から鱗が落ちっ放しでしたよ!
 それだけに、ものすごく名残惜しいです。ココさんからご指導頂けるなんて貴重ですもん!
 もっとたくさん時間があればよかったのになあ…」
興奮気味に語る小松の様子を見守るココは、内心で固唾を呑む。チャンスは今しかない。
「それなら」
口が渇いている気がして、言葉を切り、唇を舐めて湿らせる。
相手の雰囲気が微妙に変わったことを察して、小松が不思議そうにココと視線を合わせる。
「それなら、夜通し語り合うなんてのは、どうかな」
「え」
ココは言ってすぐに後悔した。予定した言葉と違うじゃないか、と一瞬で自己嫌悪に陥る。
とはいえ、急激に緊張が押し寄せて、予定した言葉とやらも失念してしまっているのだが、だからといって目の前でぱちくりと瞬きを繰り返している小松を放置するわけにもいかない。
「夜通しって、でも」
「いやっ、えっと、実はね」
でも、と来れば否定の言葉に違いない。急いで新しい言い訳を考える猶予はないと判断したココは、とにかく何か話さなければと口を動かした。
「今日は帰りが遅くなるのを見越して、ここホテルグルメで部屋を取ったんだけど、
 空きがなくて一番高い部屋になってしまったんだ。
 広い部屋でベッドも余分にあるし、よければ小松くんも一緒に泊まっていったら、どうかな、と…ほら、そこなら時間も気にせず話の続きもできるし…」
が、案の定、尻すぼみになる。自然な言い回しをと力み過ぎた結果、近年稀に見る不自然さを露呈してしまった。ココは心の中で頭を抱えた。
この場に四天王と並び称される昔馴染みの仲間がいれば、激しいツッコミを食らうに違いない。むしろ自ら率先して繰り出したいところだった。
ただ小松とできるだけ長く過ごしたくて考えた末の行動が、こんなにもハードルの高いものになろうとは、思いもしなかった。ココは苦しげに目を伏せる。自分の事の運び方が下手なばかりに、小松に嫌われるかもしれないと思うと、胸が苦しくなる。
「ココさん…それ…」
小松の声が心なしか震えているように感じた。やはり困惑しているのだろうか。
「小松く」
「マジっすか!?」
不安に耐え切れず名前を呼ぼうとしたら、耳をつんざくような大声でかき消された。
「小松くん?」

「ボク、実はホテルグルメの部屋に客として入ったことは一度もないんですよ!」
小松は驚きを隠せないというふうにココを仰ぎ見る。
「しかも一番高い部屋って!す、すごい…!」
改めて四天王たる貫禄を目の当たりにした気分になる。やはり四天王とも呼ばれる人物は自分とでは天と地ほどの差があるのだ、と小松はしみじみと思う。自身を卑下するというよりは、相手を純粋に尊敬しての感想だった。
ひとしきり感動したところで、小松ははたと重大なことに気付いた。
「え、でも、さっきのお話の続きができるのは願ってもないことですけど…。
 せっかくのお部屋にボクがお邪魔するなんて悪いですよ!」
空きがないからとはいっても、このホテルで用意する最高級の部屋のはずだ。
ココが気を抜いてくつろぐだろう空間を邪魔していいわけがない。きっと心優しいココのことだ、自分が名残惜しいなどと考えなしに本音を漏らしたばかりに、余計な気を回させてしまったに違いない。小松はそう考えた。
「そ、そんなことない!」
しかし、予想外に強い否定が返ってきた。
ココ自身も声を荒げるつもりはなかったのか、小さく咳払いをすると決まり悪そうに頬をかきながら、幾分トーンを落として言葉をつなげる。
「あ…その、どうにもボクは部屋が広過ぎると落ち着かなくてね。
 だから、どちらかというと小松くんが来てくれた方が助かるんだよ」
「そう、なんですか?」
確かに広過ぎて落ち着かないという気持ちはわかる気もする。
自分も普段住み慣れた部屋でないだけで落ち着かなくなるぐらいだから、ココも同じような心境なのかもしれない。そういえば、断崖絶壁に囲まれたココの家も、一つ一つの部屋は彼の体格の問題もあってゆったりとした造りではあったが、広いと感じるほどではなかった。小松は記憶を手繰り寄せて考えを巡らせながら、真意を推し量るように相手を見上げる。
と、ココがやけに真剣な顔つきをしていて、小松は目を丸くさせる。
「ボクのわがまま、もう一度聞いてくれる?」


己が発した言葉を聞いた小松が、驚きのそれから怪訝な表情に変わり、軽く首をかしげているのを見て、ココは寂しさにかられる。
「駄目、かな」
発した声が我ながら弱弱しい響きをしていて、ココは自嘲したくなった。
小松もきっと呆れている。いい歳をした大の大人が、何を情けないことを、と。
考えれば考えるほど暗い思考になってきて、ココはついに眼を閉ざしてしまう。
「駄目っていうか…」
あまりその先は聞きたくないな、と唇を歪めてニヒルに笑う。
きっと聞きたくない言葉が待っている。
「え、今日ココさん、何かわがまま言ってましたっけ?ボクに?」
と思いきや、小松の間の抜けた調子の返事に、ココは後ろに転けそうになった。
これまでの発言で不快な思いはさせていないらしい。ついでに冒頭のやり取りは小松の中ではわがままの範疇には入らないらしい。ほっとして目を開くと、輝かんばかりの笑顔が飛び込んできて、ココは反動で目眩を起こしそうになる。
先ほどまで鬱屈としていた心が嘘のように軽くなる。

輝かんばかりの笑顔

「えー、てか、わがままにしちゃあ可愛い過ぎますよ!
 ボクからしたら、ココさんから有益な情報を得られる上に寝床にあり付けるんですよ!?
 それだとココさんが絶対割に合わないと思うんですけど…」
小松の中では、ココは広い部屋で一人であることが寂しいのだという解釈に収まっていた。
真剣な様子から飛躍して、毒体質を気にして人を避けていた彼ならば、その寂しさも人並み以上なのだろうという結論に達した。ゆえに小松のお人好しが発揮された。
「いいに決まってるじゃないスか!ボクでよければお邪魔させてください!
 もう話し相手でも抱き枕にでも何でも、好きに使ってくれていいですよ!」
寝るだけにね、なんちゃって!あははは!とあえて明るく笑い飛ばす小松。
本人は場を和ませるための冗談のつもりだったのだが、生憎相手は冗談の通じる相手ではなかった。いや、冗談と判断する理性に、長らく抑え込まれていた本能が勝ったのだ。
がしっと急に肩をつかまれて、小松は笑いを引っ込める。
冗談は通じません。
「本当だね?」
「へ、いや」
「ありがとう、小松くん。すごく嬉しいよ」
そしてこの笑顔!
みなまで言わさず、うっすらと頬を薔薇色に染め、喜色満面で礼を口にするココ。
「え、あれ、ココさん?ちょっと?」
「今夜は寝かせないよ」
「えっなんでですか!?本気で夜通し話す気ですか!」
「うん、それもあるし、もう色々と寝かさない」
「そ、それは一体どういう…」
不穏な空気に、小松は背中に冷たい汗がつたうのを感じながら、真意を問おうと必死だ。
「さて、それじゃあ、まずは小松くんのお店を閉めてしまわないと部屋に帰れないね。
 ボクは入り口で待ってるよ。ゆっくり済ませてくれて構わないから」
「は、え、あの」
ココは少し前の心細そうな様子から一転、うきうきと今にもスキップをしそうな勢いだ。
既に入り口に向かって歩みを進めていたココは、全てを飲み込めずにまごついている小松の声に振り返ると、ぞっとするほど妖艶な笑みを浮かべた。
そしてこの笑顔!2
「大丈夫、夜は長いんだから…」
「……」
何が大丈夫なんだろう。
そして何故だろう、全然大丈夫じゃない気がしてならない。
いけないスイッチを押してしまったようだ、と理解し切れていない小松も、自らに迫る危機を察したのだった。

(でも、まあいいか)
追求を諦めて厨房に向かいながら、小松は独りごちる。
それでも、ココと一緒に過ごしていたいという自分の願いはめでたく叶ったのだ。
ココが存外に寂しがり屋なことが幸いしたのだろう。うんうんと小松はしきりに頷く。
ただ、これから何が起こるのかは予想が付かない。得体の知れない状況に肝を冷やしつつも、ココの嬉しそうな表情を思い浮かべて、やはり彼には寂しそうな笑顔よりも爽やかな笑顔の方が似合っていると、小松は再確認していた。

無論、最後の笑顔は決して爽やかではなかったのだが…。




今夜は二人で何を話そう?


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というわけでエクアモックの志藤様んちの20000HITを踏ませていただいてのキリリク作品でした~!!

リク内容は「ココマで挿絵つき」という無体なものだったんですが、思いっきり贅沢な作品に仕上げて頂きました!!

ホントに鬼のようなリクをしてしまったのに、文句一つおっしゃらずにここまでゴージャスなものを…っ!!!!

志藤様、本当にありがとうございましたっ!!!

幸せすぎて悶えまくってます…っ!!!

 

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